発酵文化を支える新たな麹菌研究の成果
日本の伝統的な発酵技術は、私たちの食生活に豊かさをもたらしています。その中でも特に重要なのが、麹菌(Aspergillus oryzae)です。株式会社オリゼと金沢工業大学の共同研究により、麹菌の酵素活性や遺伝子構造に関する新たな知見が得られ、甘酒や発酵甘味料の製造における革新が期待されています。
研究の背景と目的
高校や大学で生物学的な発酵プロセスが教えられる中、麹菌の持つ力は多くの人々に知られてきました。麹菌はアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどさまざまな加水分解酵素を生成し、日本酒や味噌、醤油、そして甘酒に欠かせない存在です。
特に甘酒や発酵甘味料の製造プロセスでは、液化・糖化酵素の種類とその活性が味の質に直接影響を及ぼします。そのため、適切な菌株を選ぶことが非常に重要です。この研究では複数の実用株を通し、麹菌のアミラーゼ活性を詳しく調査し、その遺伝子情報を解析しました。
研究方法
研究では、実用的な麹菌8株と基準株であるA. oryzae RIB40を使い、以下の手法で解析を進めました:
1.
糖化酵素活性の解析:キッコーマンのアミラーゼ活性測定キットを用いて、米麹抽出液中の活性を測定しました。
2.
遺伝子解析:各株から genomic DNA を抽出し、qPCRを活用してコピー数の解析を行いました。
研究結果
1.
酵素活性の差:8種の麹菌株の間で、アミラーゼの活性に顕著な差が見られ、最大で2倍の活性差が確認されました。これは、菌株ごとの特性の違いを示しています。
2.
遺伝的系統の提案:コピー数解析により、実用株が異なる系統に属する可能性が浮かび上がりました。これにより、発酵過程におけるさらなる研究が進められるでしょう。
3.
遺伝子構造の違い:麹菌実用株と基準株の遺伝子構造に違いがあることも明らかになり、これが活性差の一因と考えられています。
これらの結果により、麹菌の研究は新たな道を切り開くことが期待され、今後の発酵食品の品質向上に寄与していくでしょう。
今後の展望
今後は、得られた知見をもとに、酵素発現を最適化するための麹菌の育種や改良、発酵プロセスの効率化、持続可能な甘味料生産技術の確立に向けた研究を進めていく予定です。これにより、私たちの食卓に健康的かつ美味しい食品がより多く届けられることが期待されます。
発表概要
- - 学会名:令和7年度日本醸造学会大会
- - 会期:2025年10月7日~8日
- - 発表演題:「甘味料製造に資する麹菌実用株の糖化酵素遺伝子等の比較解析」
- - 発表者:株式会社オリゼ CTO 河原あい、金沢工業大学 町田雅之、佐野元昭 ほか
まとめ
本研究は、伝統的な麹菌を利用した食の文化を未来に向けて進化させる重要なステップとなっています。オリゼが提案するサステナブルな甘味料の生産技術は、食文化の革新だけでなく、社会問題を解決する可能性を秘めています。みなさんも、身近な食材である麹にもっと関心を持つことで、未来の食の楽しみ方が広がるかもしれません。