キリンと東京大学による画期的な研究成果
近年、超高齢社会の到来に伴い、私たちの健康維持や老化に関する研究がますます重要視されています。そのなかでも特に注目されるのが「腸の老化」です。老化の影響を受けると、栄養素の吸収が劣化し、高齢者においてフレイルや栄養失調といった健康問題に直結することが指摘されています。そんな中、キリンホールディングスと東京大学が進めていた研究が新たな地平を拓きました。
世界初の発見
キリンと東大の共同研究チームは、ヒトiPS細胞由来の小腸オルガノイドを用いて、老化細胞における栄養素吸収の低下を確認したのです。これは世界初の研究成果となり、細胞老化によって栄養素吸収が低下するメカニズムを解明する重要な一歩となりました。また、細胞の性質が変化する上皮間葉転換(EMT)というプロセスが関与していることも明らかになりました。
この研究成果は、2025年12月に横浜で開催される「第48回日本分子生物学会年会」で発表され、多くの研究者たちの注目を集めました。
腸の老化と栄養吸収
研究によると、ヒト小腸オルガノイドにおいて細胞老化を誘導した結果、糖やアミノ酸を取り込む遺伝子の発現量が減少していることが確認されました。これは、細胞老化が栄養素吸収にどのように影響を与えるかを示唆する重要な発見です。
また、EMTを誘導する遺伝子や間葉系細胞マーカー遺伝子の発現量が増加していることも確認され、老化が進むことで小腸上皮細胞としての機能を失っている可能性が示されました。このメカニズムを解明することで、腸の老化やそれに伴う健康課題を解決する道が開けるかもしれません。
今後の展望
今回の研究成果は、「腸の老化」に関する理解を深め、さらに効果的な機能性素材の開発への足掛かりとなることが期待されています。キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新しい喜びを広げ、心豊かな社会に貢献することを目指しています。
私たちの腸の健康が、人生100年時代を支える鍵になるかもしれません。この研究によって、腸の機能低下のメカニズムが解明され、健康維持のための新たな方法が見つかることが心から待ち望まれます。
研究の背景
腸の老化は全身の老化と密接に関連しており、特に高齢者においては深刻な栄養素吸収の低下が問題視されています。しかし、高齢者の腸を直接評価することが困難であったため、詳細なメカニズムの解明は難しいとされていました。キリンと東京大学は、この難題に立ち向かうために共同で研究を進め、ヒト小腸オルガノイドを利用した細胞老化モデルの構築に成功したのです。
研究方法と結果
研究チームは、ヒト小腸オルガノイドに抗がん剤シスプラチンを用いて細胞老化を誘導。その結果、栄養吸収に関連する遺伝子発現量が減少することが確認され、栄養素吸収の低下が具体的に示されました。さらに、各種遺伝子の発現量を評価したところ、EMTに関与する遺伝子の発現量が増加し、老化によって腸の機能が失われるメカニズムが浮き彫りとなりました。
この研究は、腸の老化を理解するための重要な手がかりとなるだけでなく、栄養素吸収改善やEMTの抑制をターゲットとした機能性素材の開発にもつながることが期待されています。今後の展開にぜひ注目していきましょう。